長尾 藤三 著『おじさん 自転車講座』忙しい現代人に響く一冊

2017.10.16


東に成人病の勤め人があれば

行って自転車をすすめ、

西に疲れた経営者があれば行って札束より花束を贈り、

南に過労死しそうな人があれば

そんなに頑張らなくてもいいと言い、

北にクルマばかり乗る人があれば

つまらないからやめろと言い、

みんなに変わり者と呼ばれる

そういうものに

ワタシハナリタイ

 

 

夜は眠らず、昼は動かず

夏は寒いくらいに冷房し

冬は汗ばむくらいに暖房し

肥満したカラダを持てあまし

性欲・物欲は極点に達し

いつもストレスでイライラ。

毎日インスタント食品にすがり

お酒とドリンク剤を摂りすぎ

たとえ疲れていても休みを取らない。

そういうものに

ワタシハナリタクナイ

 

これは『おじさん 自転車講座』長尾 藤三 著 の表紙に書かれている詩です。宮澤賢治の「雨ニモマケズ」の改変ですね。

この本、題名だけではまぁ手に取らない本じゃないでしょうか。自転車に関心をもっている人でないと、目にも止まらないかもしれません。

私は自転車に関心があって偶然この著者を知りました。
 

長尾藤三さんのプロフィール

この本の著者である長尾さんはなかなかの変わり者で、40年以上のオートバイ歴がありながら45歳の夏に突然自転車に目覚めて以来、ロードレーサー・マウンテンバイクに方向転換し熱中。
 
中高年自転車クラブ「年輪銀輪団」を立ち上げて、さらにオートバイの専門誌に「自転車はいいぞ!」という内容のエッセイを創刊以来10年以上連載しています。
生涯スポーツとしての自転車の楽しみ方を実行しながら提唱しているおじさんです。

 

一家だんらんと一見全く関係のなさそうな本なのに、読んでみると考え方にたくさん共通点がある素敵な本。

 

自転車おじさんから学ぶ「豊かさの条件」

ここで、エピローグより「豊かさの条件」の部分を紹介します。

※…は本文より省略しています

 

 

(1)豊かさは、ゆっくりしていなければならない

濃密な時間がゆっくり流れて行く、これが豊かなのです。速いことは、結果として余裕の時間をつくり出すことはあっても、それ自体けっして豊かなことではありません。

 

(2)豊かさは、少し不便でなければならない

料理を例に取るとよくわかるよね。インスタントはいくら豪華な具の入ったラーメンでも豊かとは言わないでしょ。便利さを追いかけていては、豊かさに行き着くことはできないのです。しかもこの手間ヒマかかるプロセスを、めんどうではなく楽しいものと感じる心があれば、豊かさはいっそう深いものになります。

 

(3)豊かさは、静かでなければならない

大きな音でテレビが鳴っているよりも、それを消したときのほうが、ぐっと時間が濃くなります。話しあう声もおちついた低いトーンであることが望ましい。騒音、雑音のたぐいがないほうがいいのは言うまでもありません。

 

(4)豊かさは、ひかえめでなければならない

シャンデリアがキラキラする下で、大勢の人が集まって豪華なパーティ。こういうのはまさしく「豊」というより「富」というものの典型でしょう。…できれば暖炉の燃える火だけの明かり、というのがいちばん豊かな感じがします。…昔の人は、ひかえめであることの品格や豊かさをよく知っていたんだ。

 

(5)豊かさは、自然と調和していなくてはならない

窓の外は森。煙は香しく、灰はそのまま肥料か何かにまかれる。そして木は毎年新しく芽を吹き成長して、燃やす材料は次々と再生産される。…ボクらの祖先が何十万年もそういう環境の中で暮らして来て、しかもほんの百年余り前までそうだったという経験が、血の中に刷りこまれているのかもしれません。

 

(6)豊かさは、ちょっと懐かしくなければならない

とにかく新しいものほどいいとボクらは長く信じて来たけれど、最先端のものって、技術にしろ流行にしろ、驚きのほうが多くて、居心地が悪く、まったく気をゆるせないところがある。長くなれ親しんで、ちょっと懐かしいような気持ちでつきあえるものにこそ、豊かさは感じられる気がします。

 

(7)豊かさは、個人的でなければならない

他人に見せびらかす豊かさというのもおかしいし、だれかにそう言ってもらわないと豊かかどうかよくわからないというのもヘンでしょ。豊かというのは富とちがって、外からうかがい知ることができません。自分が豊かだと思うから、豊かなのです。

 

 

いいですね。向かうべきところを見失いかけている現代人が読むべき本。自転車に興味がなくても、おすすめです。