「日本人というリスク」(橘玲著)を読んで、日本での暮らしを考える

2020.12.8


この本、銀行の新人研修中に休日の暇つぶしのために購入して読んだのですが、

「あ、銀行員一生続けるのはやめよう。」

と改めて決意するきっかけとなりました。

自分がどういう国に住んでいて、どんな状況に置かれているのか。

そしてそれに対してどういう生き方をすればハッピーに暮らせるか、ということを知るにはとても良い本です。
 
 

サラリーマンというリスク

サラリーマンの人生というのは、40代までひたすら会社に貯金して、50代から回収をはじめ、満額の退職金をもらってすべての帳尻が合うようにできています。

20代や30代では低賃金・長時間労働が当たり前ですから、経済的な余裕など生まれるはずはありません。10、20年先にならなければ、サラリーマンの本当のよさはわからないのです。

 

「経済的な余裕など生まれるはずはありません。」というのは少し大袈裟すぎるような気もしますが、勤続年数が長いほどサラリーマンとしてのうま味が大きいことは確かです。

40代の社員が20代の社員の倍ほどの給料をもらっているなんてことはザラにありますが、仕事量も同じく倍かというと、そうではないケースが多いでしょう。

会社としては、社員に途中で辞められてしまうことはコストです。その社員の育成にかけてきた時間とお金が活かせなくなりますし、人材の再配置も新たに行わなければいけません。

そういったことをなるべく避けなければいけないので、会社は勤続年数が長い社員にはより多くの給料を払い、退職時には多額の給料を払うという制度を取り入れているのです。

いわば、「会社を辞めるな!さもなくば将来もらえるはずの高額な給料と退職金がオジャンになるぞ!」という人質状態ですね。
 
 

サラリーマン&マイホームが最強戦略だった

なぜ日本のような年功序列・終身雇用制度がここまで浸透しているかというと、好景気により会社が成長し続けていたからです。

従業員を削減する、ましてや会社が潰れるなんてことはありえませんでした。

やることをやっていれば給料は確実に上がっていきます。

そういう状況だと、変に転職するよりも、多少仕事がつまらなくてもその会社で続けていたほうがメリットは大きいのです。

 

さらに、土地の値段が上がり続けていたことも大きな要因です。

マイホームは、確実に上がり続ける物件を借金して購入するという不動産投資でした。

その投資のためなら銀行は喜んでお金を貸してくれるし、税金面での優遇も大きい。さらに、そこを家にして住める。

こんなに優れた投資先は他にないでしょう。

定年までに住宅ローンを完済し(地価が上昇すれば何度か買い換え)、退職金をほぼ無税で受け取り、その後は年金で悠々自適の暮らしをする……。たしかに計画どおりなら、これほど素晴らしい人生はありません。

しかしこの戦略には、ひとつ重大な問題があります。

サラリーマンとはすべての人的資本をひとつの会社に投資することですから、これは「タマゴをひとつのカゴに盛る」のと同じです。だれもがすぐに気づくように、この投資が成功するには、そのカゴが壊れないことが絶対条件になります。ところがこの10年で、会社が倒産することは珍しいことではなく、大手企業でも頻繁にリストラが行われるようになりました。

こうして突然、サラリーマンでいることのリスクが顕在化してきたのです。

だからと言って、「自分の会社が倒産する事態に備えて独立して起業しよう!」とか、そういう話ではありません。

「別に倒産したってどうってことねぇよ。」

と言えるような暮らしをすることが大切なのです。

そういうことを心掛けていれば、会社の言うことに盲目的に従う必要もなくなるし、もっと自分のためにいろんなことに挑戦する意欲だって湧いてくるでしょう。
 
 

「伽藍の世界」と「バザールの世界」

 

伽藍・バザールとは?

伽藍というのは、ひとの集団が物理的・心理的な空間に閉じ込められている状態で、学校のような外部から遮断された世界のことです。

それに対してバザールは開かれた空間で、店を出すのも畳むのも自由です。

伽藍とバザールでは「評判」をめぐってまったく異なるゲームが行われています。

 

伽藍的な生き方とバザール的な生き方

バザールの世界でのゲームは、できるだけ目立って、たくさんの良い評判を獲得することが求められます。これが「ポジティブゲーム」です。

それに対して伽藍の世界でのゲームは、できるだけ目立たず、悪評を避けることが生き残る最適戦略になります。こちはら「ネガティブゲーム」です。

日本はまさに「ネガティブゲーム」が求められる伽藍の世界ですね。

この本では、日本の入社式を例として紹介していました。

現在の入社式では、新入社員は男も女も黒のスーツに白のシャツで、靴や髪型までほとんど同じです。これは、会社が定めた服装規定ではありません。新入社員たちが、だれの指導も受けず、伝統や慣習とも無関係に、自分たちだけで(自生的に)生み出した秩序です。

 

それぞれでの資本の使い方

伽藍の世界では、

多額の住宅ローン(借金)と少しの金融資本(つまりお金)で

不動産のみを買います。

そしてすべての人的資本(つまり体・時間)を会社につぎ込みます。

 

バザールの世界では、

必要以上の借金はせずに、金融資本を円資産、外貨、株、金、不動産、人などの様々な対象に投資します。

そして、人的資本を知識や技能、経験を積むために使います。

非常にわかりやすいですね。

そこに居続けるしかないか、どこにでもいけるか。

同じ仕事をするとしても、バザールの方が余裕を持って取り組めるのは明確です。

 
 
インターネットが普及して、日本はもうバザールの世界に移りつつあります。

それを理解して、どうすればより豊かに暮らすことができるのかを考えていかなくてはいけません。

そんなことを考えるきっかけになる素敵な本でした。

日本人というリスク (講談社+α文庫)[本/雑誌] (文庫) / 橘玲/〔著〕

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