水耕栽培は画期的だが大きなリスクも。問題点と解決策とは


たまには仕事関することも書いておこう。

ということで、今勤務している会社が取り組んでいる水耕栽培について、この1年弱経験したことと、調べてみてわかったことを合わせて書いてみます。

なにせ農業経験数ヶ月ですから、的外れなこともあるかと思いますが。
 
 

水耕栽培とは?

その名前の通り、土を一切使わずに水で栽培する方法。

引用:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-560319.html

 

水耕栽培には種類がふたつあって、

光として蛍光灯やLEDなどの人工光源を用いて栽培する人工光型と、

太陽光で栽培する太陽光型に分けられます。

前者は完全に室内で育てるので、農場というよりは工場という感じ。

これは東芝がつくった植物工場。これはもはや農業ではない…。

引用:https://www.youtube.com/watch?v=sXX0ZdvxJy4

このレベルになると、ほとんどコンピューターがやってくれるので、植え付けと収穫のとき以外はその場所に行かなくてもいいんだとか。

 

私が従事しているのはこのようにビニールハウスでやる太陽光型の水耕栽培なので、ここではそちらについて書くことにします。
 

 

水耕栽培のメリット

一般的に水耕栽培のメリットと言われていることをあげてみます。

・土壌環境が関係ないので、どこでも栽培できる

・肥料濃度などを自動制御できるため、管理が楽

・必要な肥料が安定して供給されるので、成長のスピードが速く、質も安定する

・植え付け密度が高いので収穫量が多い

・連作による障害がない

・栽培・収穫のスケジュールが立てやすい

・作業のマニュアル化がしやすく、未経験者でも取り組みやすい

 

こうしてあげてみると、画期的な栽培方法なんだなと改めて気づかされますね。

 

「閉鎖された空間での栽培なので病原菌や害虫の心配が少ない」

というメリットもよくあげられるのですが、これについては後述します。

 
 

水耕栽培のデメリット

・初期投資に費用がかかる(会社規模なら数千万~数億)

・常に電気が必要

・良質な水を大量に必要とする

 

メリットと比べれば少ないです。

初期費用さえクリアできれば、うまみの多い栽培方法のようです。

 
 

水耕栽培の問題点

さて、先ほどの

「閉鎖された空間での栽培なので病原菌や害虫の心配が少ない」

という点について言及します。
 

水耕栽培が行われるのは「閉鎖空間」?

確かにビニールハウスはビニールで覆われているので、普通の畑のように虫が自由に野菜を食べられるような状態ではありません。

しかし、覆われているとは言っても人が出入りする扉はあるし、換気のために一部を開けることもあります。

なので、当然そこから虫は簡単に入ることができます。
 

もっと言えば、強風やビニールの劣化などによってビニールが破けてしまうことだってあります。

つまり、完全な閉鎖空間ではないのです。

 

ハウスによっては、床をコンクリ張りにして、施設に入るときは靴も服も着替えるという徹底した管理をしているところもあるようですが、

それでもビニールハウスはビニールハウス。

完全な閉鎖空間にすることはほぼ不可能でしょう。

 

ですので、殺虫剤を使わずに年中安定した質の野菜を収穫することは難しいようです。

 
 

ー余談ー

農薬を使わずに、アザミウマ(スリップス)などの害虫が青色や黄色に引き寄せられるという習性を利用して捕獲する、粘着シールというものもあります。

 

 

水耕栽培は病原菌に弱い

水耕栽培では水を常に循環させているため、どこかが病気になってしまうと、その被害は瞬く間に広がってしまいます。

ですので、病原菌を増やさないための水の消毒が一番重要で、その方法はさまざま。
 

・紫外線ランプによる殺菌(電気代がかさむ・水が濁っていると効きにくい)

・水中にオゾンガスを発生させて殺菌(塩素より殺菌力、安全性が高いが、装置が高額)

・砂やフィルターによるろ過(大量の水の殺菌には不向き)

オクトクロスという農薬を使用
(ポリエステル製に布に銀を結合してあるもので、液に浸すだけで銀が放出されるので使いやすく、多発する根腐病に有効。軟腐病には効かない。)

などがあるそうです。
 

しかし、これらも虫と同様に、人の出入りや換気を行っている限り絶対に無菌状態にはできません。

むしろ、定期的に殺菌作業を行うことによって病原菌の天敵生物までもいない状態になってしまい、余計に発病したときに被害が大きくなってしまうこともあります。
 

水耕栽培は無農薬が可能といわれてますが、もし軟腐病などが発生したら、

その時栽培していたものは廃棄し、施設全体を隅々まで消毒して、新たにやり直す

もしくは

栽培終了後に水耕栽培では合法的には使えない農薬を使い、念入りに消毒する必要がある

と言われるほど、被害は深刻で、復旧が非常に大変です。

そもそも資材すべてを完全に殺菌するなんて、あまりにも非現実的です。

新規就農者が始めやすいというメリットはありますが、このようにリスキーな部分もあり、借金をせおって撤退する例も多いとのこと。
 

冒頭で紹介した植物工場ぐらいに徹底しないかぎりは、水耕栽培は画期的ではありますが、もろい栽培方法だともいえるのです。
 
 

これらの問題を克服するための方法とは

もちろん、こうした問題を解決する方法も研究されています。

ポイントは「菌を生かすこと」

野菜茶業研究所というところが開発して、各地で実用化がすすめられているのは有機肥料による養液栽培技術。

未分解の有機物を粉砕し、土壌微生物と混ぜて培養液をつくることで菌をあえて繁殖させ、微生物生態系を水中で作り上げます。

以下引用

こうすると、作物の水中の根に根毛が発生します。これは、根毛は化学肥料をとかした従来の培養液では見られません。

その周囲で根を覆うように有用な土壌微生物の膜バイオフィルムができます。この微生物の膜バイオフィルムの微生物が未分解の有機物を、分解して肥料分に変えて、作物に供給しています。

 
つまり、この技術は有機栽培の田畑で形成される作物(根)と微生物の共生を、培養液中で再現するものです。いわば、施設園芸での有機農法といえます。

 
「根部の病害を引き起こす菌は根の周りに出来るバクテリアの膜にシャットアウトされる。」(開発者の篠原信さん)ので根腐病は無論、農薬では防げなかった青枯病など病害の発生が抑止できます。

水耕栽培、養液栽培と農薬//有機農法的水耕栽培、養液栽培:畑のたより 虹屋’s blog

 

この方法が実際にどれだけの効果を発揮しているのかは未調査ですが、いたちごっこになりかねない殺菌という方法よりも、現実的な気がします。
 
 

まだまだ発展途上の水耕栽培

取り組む企業が増えてきて、家庭用のキットが売られるぐらいに認知度は上がってきていますが、まだこれという栽培方法が確立されていないのが現状のようです。

引き続き新しい情報も仕入れつつ、日々の管理に注力するとします。(と真面目ぶる)